障がいのある人もない人も一緒に楽しむ鑑賞会

横浜美術館では企画展のほかに、10,000点を超える所蔵作品をテーマを変えてご紹介する「横浜美術館コレクション展」を開催しています。毎回さまざまな関連イベントを用意し2013年度第3期のコレクション展では、次のようなプログラムを実施しました。

  • レクチャー付フィルム上映会
  • エデュケーターによるギャラリートーク
  • 聴覚に障がいのある人とない人が共に楽しむ鑑賞会
  • 視覚に障がいのある人とない人が共に楽しむ鑑賞会
  • おやこで楽しむコレクション展!
  • みんなで楽しむ横浜美術館コレクション
  • わくわく日曜鑑賞講座

今回はそのうちの一つ「視覚に障がいのある人とない人が共に楽しむ鑑賞会」に参加してまいりました。
⇒プログラム概要はこちら


簡単に言えば、約5名ずつのグループに分かれ、視覚障がいがある人もない人もみんなで一つの作品を鑑賞するというものです。
はじめて参加される視覚障がいのない方は、「うまく伝えられるかわからないけど......」と少し不安な様子。ですが、視覚障がいのある参加者の方から、「どんな小さなことでもイメージできる情報が欲しいので、ぜひたくさん情報をください」と声をかけていらっしゃいました。

そんなドキドキ感もまずは輪になって自己紹介をすれば和らぐもの。初めて会う人同士でも話が盛り上がって、大変和やかな空気でした。


さて、いよいよ展示室へと向かいます。今回みんなで鑑賞したのは、横浜美術館コレクション展 2013年度 第3期 ともだちアーティスト―収蔵作品でつづる芸術家の交友関係」でした。
ホームページはこちら⇒横浜美術館コレクション展 2013年度 第3期 ともだちアーティスト―収蔵作品でつづる芸術家の交友関係



ともだちアーティストって、今回のプログラムにもピッタリ!

今回は3つのテーマに沿って鑑賞していきました。藤田嗣治パブロ・ピカソイサム・ノグチコンスタンティンブランクーシ、そして日本画による美人画作家たちの部屋へと移動しました。横浜美術館のエデュケーター(教育普及担当)の岡崎さんから、各セクションの作品説明があります。

1913年に一人の日本人画家が渡仏しました。名前は藤田嗣治。その頃パリではすでにキュビスムシュルレアリスムが登場しており、彼は大きな衝撃を受けました。キュビスムとは、さまざまな角度から見たものの形を一つの画面におさめ立体的視点で描くという考え方の一つです。創始者の一人は有名なパブロ・ピカソです。藤田は憧れのパブロ・ピカソとフランスの地で知り合い、その交友関係は晩年まで続いたのでした。

そんなわけでまずはキュビスムを観てみましょう、ということで、パブロ・ピカソの「ひじ掛け椅子で眠る女」を鑑賞しました。

 

まずは鑑賞の方法を岡崎さんが少しだけナビゲート。

岡崎「さて、これにはなにが描かれているのでしょう?」

障がいのない参加者「女性らしき人が、横を向いて眠っているように見えます。らしき人というのは、白っぽいカーディガンのようなものが描かれ、髪のような線の束が腰まで描かれているし、タイトルに“女性”とあるので、おそらくこの塊が女性を表しているのだろうと思いました。ただ、みえるものの印象は、実際にあるものと全然違うから、非常にわかりづらい。」

岡崎「どうしてわかりづらいですか?」

障がいのない参加者「そうですね……。口のようなもの鼻のようなもの目のようなものが現実とは違う位置にあるからです」

岡崎「どの位置にありますか?」

障がいのない参加者「目が右上と左下にあって、口は左目と右目の間くらいの高さにあります。歯のようなギザギザがあり赤いので口だと思います」

障がいのある参加者「顔がどっちを向いているのかイメージできないのですが、どっちを向いているように見えますか?」

障がいのない参加者「鼻が左上に向かって長く伸びているので、左を向いているのだと思います」

障がいのない参加者「鼻もソーセージみたいに長くて大きいですね。画面いっぱいに女性が描かれています」

障がいのない参加者「タイトルに椅子と書かれているけれど、はっきりとこれが椅子と思えるものは描かれていないです。口を大きく開けているので、がーっと寝ているようです。いびきをかいているんでしょうか」


……といったように、さまざまな感想が次々と出てきました。表現する擬音ももちろん人さまざま。早くも話が盛り上がる予感です。


岡崎「それでは、次にグループに分かれて藤田嗣治の作品を観てみましょう」


ここから先は各グループに分かれて、鑑賞しました。視覚障がいのない参加者さんがキャプションを読み上げ、障がいのある参加者さんが質問をします。

どんな風に見えるか、どんな風に感じるか。そしてその情報を受け取ってどんな風にイメージできるか。弱視の方は影が見えるので、ほんの僅かな光の加減による印象の違いを、皆さんと共有していらっしゃいました。
 

作品の大きさ一つを伝えるにもその方法はさまざま。参加者さんに絵と同じポーズをとるよう誘導する光景もうかがえました。「藤田がピカソにどんな影響を受けたように見えるか」といった口頭で説明することが難しい内容も、一人一人が言葉をつないでいくことで、イメージが徐々につむがれていきます。
会話の節々を伺っていて、プレーリーはまるで想像上の作品をひとかけらずつ繋ぎ合せて合作しているようだな、なんて思いました。



鑑賞後は、日本画の道具や岩絵具に触れてみよう!という体験の時間がありました。
一緒にイメージした作品は、果たしてどんな感触をしているのか。(実物の絵を触るわけにはいきませんが^o^;) 柔らかいのか、固いのか、ざらざらしているのか、つるつるなのか。手で触れることによって新たな情報が入り、また次の鑑賞へのイメージ材料になるのです。

 

 


プログラム終了後に、参加者のみなさまに感想を伺ってみました。

[視覚に障がいのある参加者]
人は得る情報の80%が視覚によるものと言われている。視覚に障がいがあると、美術を楽しむこと自体をあきらめてしまいがち。でも人から別の形で情報を得ることで、今までに見たことがあるものも、はじめて出会う作品もイメージすることができる。同じ作品でも人によって印象が違うので、毎回新しい情報を得てイメージを膨らませることができるので、とても楽しいです。


[視覚に障がいのない参加者]
芸術を通して同じものからコミュニケーションがとれるということは素晴らしい。お話するときに特別なにかに気を付けて話すということもありません。好きなものを共有して、聞かれることに対して「こんな風だよ」と返事するという、会話のキャッチボールを繰り返していくうちに距離が縮まっていきます。わからなければ聞いてくださるので、それに対して思ったことを伝えています。また他の人の感想も自分と違って面白いです。

こういった、共に楽しむ鑑賞会の活動は、横浜美術館の他に横浜市民ギャラリーあざみ野でも行われています。ぜひ、人とのつながりを通した鑑賞を体験されてみてはいかがでしょうか。




あざみ野フォト・アニュアル 写真の境界 関連イベント
「アートなピクニック―視覚に障がいがある人とない人が共に楽しむ鑑賞会」
◆日時:2月22日(土)10時〜12時30分
◆会場:横浜市民ギャラリーあざみ野
◆定員:視覚に障がいがある人10名、視覚に障がいのない人15名(抽選)
◆申込方法:イベント名、視覚障がいの有無、送迎希望の有無、名前(ふりがな)、住所、年齢、電話・FAX番号を明記の上、往復はがき、HPの申込フォーム、直接来館のいずれかで申込
◆宛先:〒225-0012 横浜市青葉区あざみ野南1-17-3 横浜市民ギャラリーあざみ野
◆締切:2月12日(水)必着
※最寄のあざみ野駅までお迎えが必要な方は申込時にご相談ください。
◆問合せ:横浜市民ギャラリーあざみ野 TEL.045-910-5656 HPはこちら


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