「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2012」

夏休みの宿題を、最終日にガガーッと終わらせる子どものように、会期終了間近の「越後妻有アートトリエンナーレ2012」をダダーッとダイジェストツアーで巡ってきた。
その中から、印象に残った作品をいくつかご紹介・・・ホント、連日大盛況なんだろうな・・・平日にも関わらず、ツアーバスは満席!


1:大成哲雄・竹内美紀子「上鰕池名画館」
ゴッホフェルメールなど世界の名画に登場する場面を、上鰕池の地元住民と風景で再現。ダヴィンチの「最後の晩餐」とかムンク「叫び」とか・・・どれもこれもアーティストと住民がワイワイガヤガヤ相談し合って楽しく作った様子が伝わって、思わず口角が緩む作品のオンパレード!
単純なパロディとは異なる何かを感じる。自分的には、特にマンティーニャの「死せるキリスト」が刺さった。「そうだよな、ジーサス。お互いに父親業を頑張ろう!」


2:マリーナ・アブラモヴィッチ「夢の家」
古民家にある赤色・緑色・紫色・黄色の4部屋(個室)に、宿泊客がそれぞれの部屋と同色のツナギを着て一晩泊まり、そこで見た夢を備え付けの「夢の本」に書き綴っていくという参加型の作品。寝具は、棺桶と黒曜石製の枕のみ。
この作品は人気が高く、期間中の宿泊予約は満杯だとの事。興味津々で「夢の本」を読んだけど結構「徹夜」の人が多かったりする・・・夢みてないじゃんか・・・待てよ、人生そのものが「夢」だという事を言いたいのか?


3:まつだい雪国農耕文化センター「農舞台」
今回の芸術祭は、越後妻有760㎢(東京23区の約1.2倍!)に360作品が点在している。その中でも、ここ「農舞台」周辺には屋内外に大小50作品以上が集中展開されている。つまり、どこを見ても必ず視界にアート作品が入る(と言うよりも嫌でも目に入ってしまう)。
あれも、これも、そこも、あそこもみんなみんなアート作品だ〜。
ここでの体験のおかげで翌日は、朝から目に留まるもの全てがアート作品に思える自分に・・・ついに、内なるアートリテラシーが炸裂?


4:越後妻有里山現代美術館「キナーレ」
今年開館したにも関わらず、当芸術祭の中心会場に大抜擢されたこの美術館が与えた衝撃は、甲子園初登板でいきなり22奪三振記録を打ち立てた、桐光学園の松井投手に匹敵するものがある(と思う)。恐らく、今回の芸術祭を訪れた殆んど全ての者が、この美術館に足を運ぶ。
ここは、今回の芸術祭において日常社会から「アートの楽園」への結界役を担っている。その象徴として回廊状の建物の中庭には、クリスチャン・ボルタンスキーの「No Man’s Land」が息づいている・・・重低音の鼓動が響く中、総量9トンの古着で作られた山の頂を、クレーンがつかみ上げては落とす事をひたすら繰り返している・・・。
余談=写真に押さえる事が出来なかったが、室内で展開されているクワクボリョウタ作「LOST#6」は、エンターテイメントとして純粋に楽しめた!喝采




以前、十日町出身の落語家である桂歌助師匠に「私の故郷は、ホント田舎なんですよ。だって越後の『詰り』と呼ばれる地ですからね」と伺ったことがある。
十日町を含む辺り一帯を称する「越後妻有」は、かつて人々が日本海を玄関口に舟で信濃川を往来していた時代には、川を遡った先にある行き詰まりの豪雪地帯だったのだ。
もちろん今では、東京圏から関越自動車道上越新幹線が延びたことで、逆に「玄関口」としての発展を遂げていて、「詰り」などという地域ではない。
しかしながら、その利便性が人々の流出に拍車をかけ、「限界集落」と呼ばれているディレンマがあるのも事実だ。
豊かな緑・澄み渡る空・嫋やかな川・心地よい風・・・この素晴らしい里山に溶け込むようにちりばめられた数多のアート作品もさることながら、運営サイドの持つ高いホスピタリティには、この大地に誇りを持ち、再びこの地が多くの人々の日常の場になるよう真摯に努力している気概を感じる。(たかだか9時間余りの滞在ではあったが)「詰り」と呼ばれた地に、「妻有」という素敵な字を充てた優しい感性を持つ先人のDNAを、しっかり受け継いだ人々の心根に触れた気がした。(記:ハマケン)